外から覗くと店内は真っ暗で、店の真中には自転車が止められている。そのすぐ右には服屋のバーゲンセールによく使われるワゴンが場をとり、アルバムや写真立てが「特価」と朱書きされて並べられている。店は閉まっているなと思いつつも一応扉を押してみると、あっけなく開いた。間抜けた電子音が間髪入れずに鳴りひびく。単音で「エリーゼのために」をなぞっている。私は扉が開いた勢いで中へと進んだ。
「いらっしゃいませ」
声のした方へ目をやると、左側にあるカウンターのやや奥の方に老人が一人佇んでいた。それはもう佇んでいたとしか書けないような佇まいであった。人がいるとは思わなかったので、驚いた。
私が口を開くまで少し間があった。
「あの、証明写真をお願いしたいんですけれども、こちらでは」
「ええ、できますよ。どうぞ、おかけ下さい」
「あ、ああ。失礼します」
私は入り口際に置かれていた丸椅子に腰掛けた。
「どうぞ、タバコでも吸ってお待ちになってください」
見ると、すぐ傍に、カウンターに寄りそうように灰皿が立っている。
「どうぞ。遠慮なく。吸わないですか」取調べでも受けているような気分だ。
「ええ、あの、吸わないんで」思わずすみませんと言いかけた。
「そうですか。ちょっとお待ち下さいね」そういうと老人は奥へ下がった。
薄暗い店内にはいろんなものが置かれていた。色褪せた和服姿の田中麗奈、腰を曲げてショートパンツの眩しい笑顔は鈴木保奈美だろうか。状態が良ければネットオークションで高く売れるのかも知れないが、そのまま学芸会のお化け屋敷に使えそうな、青白い顔をしている。
自転車とワゴンとアイドルの古びた大きな張りぼてとで、さして広くもない店内はカウンターの前の人一人通れる分しか空いていない。見上げると、棚には「○○分後に仕上がります」の札のかかった時計と「技術本位」と書かれた看板がある。ありきたりの看板に、妙に納得してしまった。
「用意ができましたので、どうぞ」奥から声がした。
(つづく)