門に括られていた老犬は私に甘えてきた。年のわりには執拗だった。私は受け流しながら、少し困惑した。老犬はのどが渇いているらしいので、めだかの泳いでいる蹲(つくばい=庭に置く用の大きな壷のようなもの)を門のところまで運んでやった。すると老犬は鼻を深く水に浸し、口を開いて人間のようにがぶがぶと水を飲み始めた。傍で見ていて明らかに飲み過ぎであるが、それでも老犬は水を飲むことを止めなかった。
そのうち、老犬は蹲を倒してしまった。私は土の上でぴちぴち跳ねるめだかを一匹づつ拾い、蹲の中に戻していった。半分ほどは頭がなく、いかなごのくぎ煮のようだった。老犬は、めだかを拾おうと屈んでいる私に乗りかかって甘えてきた。年のわりには元気だった。
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目が覚めて後一時間ほど、飼い犬が先月死んだことを忘れていた。若い頃(「飼い犬」)は可愛がってやったこともあったが、最後数年(「老犬」)はほったらかしだった。犬が夢で語りかけてきたというのではなく、私の心の問題だ。